昼であることを忘れてまだまだ飲む
“ジャケ買い”したくなる可愛いラベルだが、味は本格派
調子が出てきた模様のケンちゃんは、植物学者・牧野富太郎の名を冠したMAKINOという名のジンのソーダ割りを頼み、私はバーボンのウッドフォードリザーブへつなぎ、最後の1杯として、ラガヴーリン12年を注文した。スペシャルリリースの樽出し原酒だ。
まずはストレートでちらりと舐める。まろやかで、甘いバニラ香がする。強いスモーキーフレーバーとどっしりした構えのラガヴーリン16年とはまた別のおいしさである。香りも柔らかい。ロックグラスで提供してもらったのは、途中で氷を足してみたいとお願いしたから。そして、氷をひとつ浮かべると、度数は下がるが、香りの広がりは衰えず、さらに少しの水を足しながら、ゆっくりと味の変化を楽しむことができた。
飲んだことのない酒に出会うのもバーの喜びだ
ケンちゃんの締めは、Takasaka’s LEMON SOUR。徳島県産レモンのスライスをビーフィータージンに漬けこんだ特製のレモンサワーの素みたいな液体に、ソーダを加えて完成する、やはり、このバーの名物のひとつだ。
ひと口飲んだケンちゃんから感嘆のため息が出る。そして、またしても一気に飲んでしまいそうな、前のめりな態勢になっていることが、横にいて、はっきりとわかった。
このレモンサワーは夏の昼酒にも最高だろう
オーセンティックバーで飲む昼酒は格別の味がする。その思いを新たにしていると、カウンターで飲んでいた外国人カップルが、高坂さんに何か訊いている。今夜、近くで、カジュアルな日本のご飯を食べたい、とかなんとか言っているらしい。
高坂さんのおすすめは、並木通りを挟んでお向かいさんの、「三州屋銀座本店」だった。少し酔いの回った私は、つい口を挟んだ。
「Tofu & Chicken Soup is Good!」
鳥豆腐がうまいですよ、の意であるが、さて、うまく伝わっただろうか。
昼酒御免! 本日はこのあたりでお開きです。
ビルの看板には控えめな「14時 開店です」という案内が(「Barたか坂」東京都中央区銀座2-4-19)
【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』が好評発売中。