上昇基調にあるハンセン指数(TradingViewより)
従来、事前学習においてGPUの量、質が決定的な要素になると信じられており、バイデン政権は中国へのハイエンドGPUの輸出を禁止していた。AI開発において米国の優位は揺るがないと誰もが信じていたところに、強化学習などにおいてブレークスルーとなるような工夫を凝らし、限られた量、質のGPUしか用いずに、欧米系に匹敵する機能を持つDeepSeek-R1が突如として出現した。
しかも、DeepSeek-R1はAPIコスト(ユーザー側ソフトウエアにDeepSeek-R1を共有させるための費用)が劇的に安く、ユーザー側において開発の自由度が大きいオープンソース(無償で公開し、再使用、改変、再配布が許されるソフトウエア)での提供だ。中国企業が一斉にDeepSeek-R1をAPI連携することでAIの社会実装が急速に進むと予想するグローバル投資家が中国株へのアセットアロケーションを見直したのである。
中国の経営者は決断が速い。公開からわずか1か月半の間に、アリババグループや百度などの一部の競合先を除き、ソフト開発、流通、教育、ICT、金融、医療、公的機関など、社会全体に広くDeepSeekが拡散した。実際、グローバル投資家が予想した以上のスピードでAIの社会実装が進んでいる。
他にも好材料がある。アリババグループ金融部門(アントグループ)の香港上場が2020年11月、直前になって取り止めになる事件があったが、それ以来、中国共産党は民営企業の違法行為の摘発を強化し、厳しく罰するようになった。多くのグローバル投資家はこうした監督管理よってイノベーションが阻害されるのではないかとの懸念を抱き、中国株投資を敬遠する動きが広がった。
しかし、習近平国家主席は2月17日、民営企業座談会に出席、「民営経済を発展させるといった共産党と国家による基本方針政策は既に中国の特色ある社会主義制度システムに組み込まれており、一貫してこれを堅持し、実行し、変更することはできないし、変更しない」と発言、共産党による民業圧迫懸念が後退した。
全人代で発表された今年の経済運営方針の中身
今年の経済運営方針を示す政府活動報告が3月5日、全人代において発表された。“2025年政府工作任務”の最初の項目は“消費を奮い立たせることに力を注ぎ、投資効率を引き上げ、国内需要を全方位から拡大させる”である。
当局は積極財政政策、金融緩和政策を継続させるがそれによって投資を大きく刺激して景気を浮揚させるのではなく、消費を活性化させること、イノベーション力をさらに高め、新たな需要、更新需要を作り出したり、経済全体の生産性を高めたりすることで、経済を安定成長させ、通年で5%前後の成長を達成させる方針だ。