煎り豆ポリポリ、だし巻きフワフワ
寒い日に飲むビールもまた旨いのだ
11時半ごろには店についた。陽気のいい季節になると高尾山ハイキングや浅川沿いのウォーキング帰りの人たちが早くから店の前に列をつくるかもしれない。けれど、今はまだ3月の上旬。しかも、雪のちらつく寒い朝である。まあ、なんとかなるんじゃないかと読んで、出かけてきたのである。
幸い、席は空いていた。アウトドア用のジャケットに手袋という防寒スタイルで店に入り、まずはそれを脱ぎ、座った椅子の隣の椅子の上に丸めておいた。こんなに寒いのに、最初の注文として口をついて出たひと言は、
「ビール、瓶ビールください」
であった。出てきたのはエビス。午前中からプレミアムビールとは贅沢な、と思うあたり、私も古い人間の一人なのかもしれない。
煎り大豆をポリポリやり、ビールを流し込む。うまい。窓の外は鉛色の空を背景に大粒の雪がひらひらと舞っている。
蕎麦屋にて ビール煎り豆 雪の朝
焼き味噌は、この店の名物のひとつだと思っている。塩気が軽めで、カツオブシのいい香りが心を和ませる。刻んだネギの食感も心地よく、他の蕎麦屋さんの味噌とは一線を画している。
焼き味噌のカツオブシの香りにホッとする
続いて登場したのが、だし巻玉子だ。運ばれてきた皿を見て、思わず顔がほころぶ。ふわっふわのだし巻玉子、皿の端に醤油をかけた大根おろしが盛ってある。さっそく箸を入れそうになって、おっと、酒を頼まねばならないと、メニューを手に取る。厳選日本酒には、田酒、雅山流(山形)がある。まずは、田酒。寒いから燗でいこう。
出された猪口は小ぶりで可愛らしいのだが、ひょいと裏を見ると、猪口ごとに違う顔が彫られている。それがまた楽しい。ちなみに私の猪口の裏のこの人は、どんな人だろう。この帽子、髭の具合からして、中国は清朝の官僚であろうか。福々しくて暢気そうで、なかなか微笑ましい。この猪口で青森の酒を飲む。
猪口の裏にいたこの人も、きっと酒好きに違いない
田酒。いい酒ですなあ。青森では昨今、豊盃が気にいっているけれど、田酒には不動のうまさがあると思う。
そしてこのだし巻玉子。焼き味噌にも共通するが、塩気、カツオブシの香り、ともに穏やかで、ホッとする味わいなのだ。酒肴としての出汁巻きにはもっと濃い風味のものがあるけれど、土曜の昼酒には、これくらいがちょうどいいような気がする。なにしろ、うまい。