「天ぷらは何から喰うか」の重大問題
小海老3本、野菜5種の贅沢天ぷら
今回の昼酒は、いつもの飲み友ケンちゃんではない別の連れ合いと出かけたのですが、そのTさんもそれほど強くはないが酒は好きで、蕎麦前で呑むというスタイルもたいへん好んでいる。だから、先刻から、焼き味噌、だし巻玉子と定番の蕎麦前を味わいながら、微笑みが消えないのである。
そこへ、小海老と野菜の天ぷらの皿が出てきた。おお! 小海老が3本に、野菜が5種類盛ってある。エビのしっぽとニンジンの赤、シイタケの黒にピーマンと春菊の緑。シンプルだがとても美しい。薄くからめた衣がまた、見るからにサクサクしていそうで、早く口へ放り込みたいと思わせる。
添えられるのは塩と天つゆ。春菊と小海老の1匹をざぶんと天つゆにつけて、つゆの滴るままに茶碗の白飯にのせ、一気に掻きこむのもいい。などと咄嗟な連想をするけれど、その一方で、米じゃないよ、蕎麦だよ、蕎麦、しかも蕎麦はまだ少し先で、酒をもう1本もらおうじゃないの……と、頭の中も忙しいのである。
そんなことより、天ぷらだよ。何から喰うか、それが問題だ。小海老は3本もあるわけで、Tさんは、私はシイタケをいただきたいので海老は1本でいいと条件を提示してきた。ということはつまり、私はこのうまそうな小海老を2本、喰っていいわけなのである。であるならば、ここは迷わず小海老の1本に箸をつけるべし……。いや、私はそうはしなかったのである。
私の箸がつまんだのはピーマンであった。それを小皿の塩にちょんちょんとつけて口へ運ぶ。うまい。サクサクとして、歯ごたえもよく、実にうまい。そのひと口に満足して、私は燗酒の猪口を空にし、また、そこへ注ぐのだ。
次に小海老だ。やはり最初は塩。ああ、うまいねえ。それにしても、この天ぷらという、とびきりうまいものを、誰が発明したのだろう。調べてみると、ポルトガルから日本へ伝わったという説がある。
てやんでえ! 才巻、キス、アナゴ、コチとくりゃ江戸前に決まってら、と思っていたが、西洋から伝来したというのだから驚きだ。でも、まあ、そんなことはどうでもいい。徳川家康が鯛の天ぷらを食べ過ぎて亡くなったという嘘か本当か知らない話を読んだか聞いたかしたことがあるけれど、まあ、それくらいにうまいものということだ。