「1年ほど前に、1000万円近く入れていた大手行の預金口座を解約し、自宅で管理するようにしました。もう銀行に預けるメリットを感じませんから」
大手企業に勤める50代の役員A氏はそう語る。
「ろくに金利がつかないし、ATMを使うたびに手数料です。たとえば1万円を引き出すだけでも土日や祝日だと時間外手数料で216円も取られるんですから、馬鹿馬鹿しいでしょう」(A氏)
近年、A氏のように「タンス預金」に走る富裕層が激増している。第一生命経済研究所が日銀の統計をもとに試算したところでは、今年2月末時点でタンス預金の総額は約43兆円に上る。試算を行なった同研究所の首席エコノミスト・熊野英生氏が解説する。
「タンス預金総額は銀行券発行残高などの統計から推計したものですが、前年同月比で約8%増、3兆円の増加となりました。タンス預金は1990年代後半の金融危機、2002年のペイオフ解禁などの際に積み上がり、今も増え続けています。しかも、2010年代に入ってからは年に1兆~2兆円の増加だったものが、2015年以降、ペースが明らかに上がっています」