僕が初めて支店長になって外回りの営業に出るにあたり、事前に部下にお客さんを回らせ、「今度の支店長は本社の企画部を歩いてきたエースで、将来の頭取候補ナンバーワンです」と言わせました。
そうすると、お客さんは「この支店長と付き合っておくと、将来いいことがあるかもしれない」と期待して預金してくれるんですよ。そんなこんなで、預金額を前任の支店長時代の50億円から500億円へとひと桁伸ばしました。いわば僕という人間の将来性を売っていたわけです。
──バブル時代に限らず、近年になってもオリンパス巨額粉飾決算事件、東芝の不正経理問題など、企業とサラリーマンが「道を踏み外す」事例が絶えません。なぜなのでしょうか。
國重:サラリーマンというのは会社のためなら何でもする、というところがあるんですね。自分が個人的な利益を得るわけでなくても、「会社のため」という大義名分があると何でもしてしまう。極端に言えば人さえ殺しかねない。
イトマン事件のとき、僕は自分の愛する銀行が「闇の勢力」に喰い物にされるのを阻止しようとしたつもりですが、もしかしたら僕と反対の側に立っていた役員も「自分は会社のためにやっている」と信じ、その人なりの正義の立場に立っていたのかもしれません。
──國重さんのやったことは「闇の勢力」の米櫃を荒らすことです。身の危険を感じませんでしたか。
國重:僕が動いていることがわからないようにやっていたつもりですが、当時の頭取に「くれぐれも身辺に注意しろ」と言われたことはありました。たまたま警察庁出身の友人から「防弾チョッキを安売りしているから買わないか」と勧められ、実際に買い、半分冗談でそれを着て会社に通っていた時期もありますよ。