裏技には落とし穴が付き物
「逆日歩」にご用心
ところが、このクロス取引には思わぬ落とし穴があります。
それが、クロス取引で生じる「逆日歩(ぎゃくひぶ)」です。逆日歩とは、信用売りが増えすぎて、株が不足した場合に追加でかかる費用です。株券の“追加レンタル料”だと考えるとわかりやすいでしょう。
この逆日歩が、株主優待の金銭的価値より高額になるケースがあります。人気のある優待銘柄の場合、多くの投資家が権利付最終日に一斉に信用売りするため、株不足に陥るのです。その結果、投資家は、優待品の金銭的価値を大幅に超える逆日歩を払うはめになります。
【実例1】湖池屋の悲劇はこうして起こった
実際に多額の逆日歩が発生してしまった例をご紹介しましょう。
湖池屋<2226>は、ポテトチップスなどのスナック菓子でおなじみの菓子中堅企業。東京証券取引所のジャスダックに上場しています。同社の株主優待は、100株保有で1000円相当の自社商品の詰め合わせ(年2回)で、権利確定日は6月末日と12月末日です。
Aさんは湖池屋の大ファン。株主優待でポテトチップス詰め合わせがもらえると知り、実質ゼロ円で優待の権利がもらえる「クロス取引」をやってみよう! と思いつきます。
権利付最終日の12月27日に現物株100株を買い、同時に100株を信用売り。そして翌28日に、信用売りを現物株で返済するクロス取引を完了させて、無事に株主優待の権利を得ました。株価変動リスクゼロ、コストを除けば実質ゼロ円で優待権利を得たと大喜びのAさん。しかし……
このとき、優待狙いの多くの投資家がAさんと同じことを考えていました。そのため、実は大量の空売りが行なわれる状況となっていたのです。その結果、湖池屋株は過度の株不足に陥り、1株あたり320円の逆日歩が発生。Aさんは100株×320円=3万2000円の支払いが必要となりました。
逆日歩は、空売りの受け渡し日から現渡しの受け渡し日の前日までかかります(片端入れ)。湖池屋のように12月末日が権利確定日の場合、年末年始の休場をはさむため、逆日歩が発生する期間が長くなります(今回は12/30~1/3の5日分)。これも、逆日歩が高くなった要因でした。
こうして、1000円相当の優待は、3万2000円の高級ポテトチップスになってしまったのです。
過去の状況をチェックすべし
このようにクロス取引は、人気の高い銘柄では突然の逆日歩が発生することがあるため、注意が必要です。
Aさんのような悲劇を繰り返さないためには、過去に権利付確定日付近で逆日歩が高額で発生している銘柄は避ける、信用買い残高と信用売り残高の推移をチェックして、逆日歩が生まれにくい(買い残高のほうが常に多い)銘柄を選択するなど、慎重に取引を行いましょう。
また信用取引には、取り扱い証券会社や空売り可能な優待銘柄が限られているものの、逆日歩が発生しない「一般信用取引」などもありますので、場合によってはこちらも検討しましょう。