つみたてNISAは森氏が発起人となった新制度だ。個人の資産形成を支援することを目的とし、顧客は“税制上の優遇措置”を受けられる。その対象となる投信は、金融会社にとってドル箱としての期待が大きい。
しかし、ほとんどの商品が「対象外」の烙印を押されたのだ。いってみれば“もっと買い手のためになる商品を売れ”という業界全体へのメッセージである。森岡氏が続ける。
「顧客よりも、売る側の銀行や証券会社のほうが圧倒的に情報を持っていて、買う側の客はなかなか知識や情報が追いつきません。森氏は、その非対称性を利用して、金融機関が“手数料”を多く取れる金融商品を顧客に売りつけてきたとみて、それを改めようとしているわけです」
森氏は、2015年7月に金融庁長官に就任。検査局長を務めた4年前から改革に着手し、「顧客本位の金融商品を売る」ことを金融機関に求めてきた人物だという。ジャーナリストの須田慎一郎氏はこういう。
「日本のマネーを貯蓄から投資の分野に移そうという考えが根底にある人。日本の金融業界を護送船団型の“業界の理論で動く”現状を変えようと様々な政策を提唱してきました。今回のように金融庁が業界に痛烈な批判を浴びせるのは異例だが、森氏は財務大臣と金融担当大臣を兼務する麻生太郎氏と親交が深く、菅義偉官房長官など安倍政権の中枢からも信頼が厚い。後ろ楯があるからこそ、こうした発言ができる。業界では“金融庁史上最強の長官”といわれています」
気になるのは、森氏の考える方向に業界が変わっていくことが、本当に金融商品を買う個人のためになるのかということだ。経済アナリストの森永卓郎氏は、肯定的に評価するひとりだ。