つまり、日本の景気がなかなか回復しないのは、フィーリングやサイコロジーの問題なのである。しかも、そもそも今の日本はモノが充足している。たとえば、家電製品や自動車などの耐久消費財は、それらを必要としているほぼすべての人が所有している。その耐久期間が6年とすると、買い替え需要が毎年6分の1ずつ出てくる計算になる。
しかし、実際には家電商品も自動車もなかなか壊れないので、直ちに欲しいモノというのは意外と少ない。このため人々は少しでも「景気が悪いな」「今後は給料が下がるかもしれないな」と思ったら、財布や貯金に余裕があっても買い替えサイクルを7年、8年に延長する。その反対に「景気が良いな」「給料が上がりそうだな」と思ったら、買い替えサイクルを5年、4年に短縮する。
つまり、個人消費を拡大して日本の景気を上向かせるためには、国民の不安を解消し、フィーリングやサイコロジーを「お金を使おう」という方向に動かすべきなのである。
ただし「労働力人口」、すなわち現役で働いている人たちのフィーリングやサイコロジーを変えてみても、あまり効果はないだろう。現役世代は子育てや子供の教育にお金がかかるし、住宅ローンをはじめとする負債も抱えているからだ。
一方、教育費や住宅ローンなどから解放された「非労働力人口」で失業率にカウントされない高齢者たちは、前述したように、この国の個人金融資産の大半を保有している。
ということは、景気を良くするためには、失業者をこれ以上減らしたり、労働者の賃金を上げたりすることより、高齢者のフィーリングやサイコロジーを変えることのほうが重要な要素となる。