上司:「本当に中川さんはAについて何も知らないのですか?」
私:「しばらくなんの連絡もなかったし電話もメールも返事がないので心配になって会社に電話をしたのですが」
上司:「実はAは会社を辞めまして……」
私:「セクハラでもしたんですか?」
上司:「いや、セクハラではないのですが、まぁ、ホメられたことではないことをしまして……。そして、社内では実は中川さんも片棒を担いでいたってことになってまして……」
私:「えっ? それって一体なんなのですか? オレ、何も知りませんよ!」
上司:「いやぁ、まぁ、詳細は省きますが、中川さんは本当に知らないんですね?」
私:「知るも知らないも何も、オレは今初めてAさんが退社したことだって知りました」
上司:「分かりました。そうしましたら、中川さんはシロということで理解しました。失礼を申し上げ申し訳ありません」
私は仲良くしていたA氏が何らかの不祥事を犯したことは理解したものの、彼のことが好きなだけに、それ以上は聞きたくなかった。恐らく推測するに、これは横領の類にあたる「架空発注」だろう。コンテンツ制作会社に勤めるA氏は、私に対して何らかの発注をしたことにしていた。社内では「いやぁ、中川さん、ふっかけてくる銭ゲバでしてね……」のようなことを言い、私があたかも高額の請求をし、それを受け入れていたということではないだろうか。
部下の「中川さんは関与してないんですか?」という質問は、この仮説に符合する。通常、制作会社や広告代理店の不正というものは、下請けからのキックバックをもらう手法を取る。100万円の外注費がかかることを上司や営業に対して報告するのだが、実際にかかる金額は50万円ほどで、一旦100万円は下請けに払うが、後にその下請け会社の社長から50万円を自分の口座に振り込んでもらうのだ。