政府は、年金の受給開始年齢を現在の「65歳」から「75歳」にしようとする計画を着々と進めている。年金の受給開始と退職年齢の間の空白期間が広がれば、働いて収入を確保する必要が出てくる。自民党は政策提言で、〈65歳から74歳までは「シルバー世代」として、本人が希望する限りフルに働ける環境を整備し、「支え手」に回っていただける社会の構築を目指す〉と記している。この提言はまさに「老前労働」を促しているわけだが、その労働で得られる対価は、現役時代と同じではない。
国税庁の民間給与実態統計調査によると、再雇用・雇用延長された65~69歳の平均月収は30万500円で、現役時代のおよそ4割減となっている。仕事内容が同じであったとしても、現役時代の収入は確保できない。それでも再雇用されれば恵まれている。完全に退職した後に、それまでの仕事と無関係なアルバイトやパートに“転職”した場合となれば、月収10万円以下というケースも珍しくない。
収入が減るだけではない。収入は減るのに、現役時代同様の社会保険料負担を強いられる。収入に対して所得税と住民税がかかってくることに加えて、年金保険料も徴収される。本来なら受給できる年齢なのに、年金の払い手となるのだ。「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。
「今後、政府は65歳定年制を根付かせた段階で年金の70歳支給開始に舵を切ることは確実です。その先の75歳支給開始は、すでに“70歳定年制”を見越しているということです。現在、国民年金が60歳、厚生年金が70歳まで徴収されているが、それも引き上げられるでしょう」