荻原氏が懸念するのは、年金受給が後ろ倒しになって生まれた不足分を、退職金を使っての投資で穴埋めしようとするケースが増えることだ。
「マイナス金利政策で稼げなくなった銀行など金融機関は、今でも個人を標的に投資を呼び込むCMなどを大量投下して、退職金を“ターゲット”にしています。高利回りを謳う元本保証のない商品を勧められるままに買ってしまう例も少なくない」(同前)
“安定した収入(年金)はないが、ある程度まとまった資金(退職金)が手元にある”という状態でリスクの高い投資に手を出すのは、命取りになりかねない。計算上は年利7%で10年運用できれば、資産は倍増する。2000万円の退職金が4000万円に増やせれば、年金消失分は埋まる。
「しかし、そんな運用は至難の業。安定運用ができるのは年利2%程度がせいぜい。老後の資産計画がいきなり崩れ、退職金を2倍に……と焦ってハイリスク・ハイリターンの商品に退職金をつぎ込む人が増えれば、元本を大きく毀損させ、老後の計画が水泡に帰す悲劇が続出する」(同前)
退職金を失えば、老後破産を避ける術はますますなくなる。やはり退職金をできる限り温存し、「働く」しかない。だが、それも容易ではない道だ。
※週刊ポスト2017年9月8日号