「客が何を欲しているのかをいちばんに考えた実業家」
『小林一三 都市型第三次産業の先駆的創造者』の著者で、跡見学園女子大学の老川慶喜教授は「客が何を欲しているのかをいちばんに考えた実業家。理想主義者であり、現実主義者でもある」と小林氏を評する。
「マーケティングという言葉がない時代からマーケティング能力に長けていました。例えば、東京と大阪を行き来していた彼はサラリーマンが会社から出る出張経費で賄えるホテルを作りました。当時のホテルは帝国ホテルなど、高級なホテルばかり。小林氏は、ただ寝るだけのサラリーマンは、狭くても安価な方がいいだろうと考えたのです。これが現在のビジネスホテルの走りです」(老川教授)
『中央公論』で「宝塚をつくった男・小林一三」の連載執筆中の明治大学の鹿島茂教授はこう語る。
「この時代、富裕層と貧困層の間に『中間層』が生まれましたが、これを作り出したのも小林氏です。若くて金はないが、インテリジェンスがあり、将来的に『中間層』になりうる人々を育て上げ、後のこの層をターゲットにしてビジネスを展開した」
その最たる例が、世界初のターミナルデパート・阪急百貨店の設立だった。小林氏は当時の日本の百貨店に疑問を感じていたという。
「当時、欧米の百貨店では『いかに安く』というよりも、『いかに好感を売ることができるか』ということに重きが置かれていたため、宣伝やサービス等に経費をかける分、小売価格が卸売価格の倍ということが普通でした。その手法を踏襲した東京の百貨店に対して、小林氏は『なんたる馬鹿馬鹿しいこと』と斬り捨てています」(鹿島教授)