小林氏の「顧客ファースト」の理念が表れた逸話がある。阪急百貨店に併設された大食堂で人気メニューだったのが当時は贅沢品だったライスカレー。だが、ライスカレーすら注文できない若者たちが、ライスだけを注文し、テーブルにあるカレー用のウスターソースをかけて食べる「ソーライス」を生み出した。食堂の責任者はすかさず「ライスだけの注文はご遠慮ください」と張り紙をしたが、それを見つけた小林氏は責任者をこう叱責した。
「確かに今、彼らは貧乏だ。しかし、やがて結婚して子供を産む。その時ここで楽しく食事したことを思い出し、家族を連れてまた来てくれるだろう」
そして「ライスだけのお客様歓迎します」という張り紙の内容に変え、さらには新聞に「当店はライスだけのお客様を喜んで歓迎します」という広告まで出したのだ。
この目先の利益にとらわれない経営理念こそが、小林氏を、そして阪急百貨店をここまで大きくしたことは間違いない。
撮影/深澤慎平
※女性セブン2017年9月14日号