その裏には、働く高齢者の在職老齢年金を減額(支給停止)することで毎年生み出している「年金埋蔵金」が近く“枯渇”するという事情がある。
在職老齢年金の支給停止基準は64歳以下と65歳以降で大きく違う。64歳以下は給料と年金を合わせた月収が28万円を超えると年金が減額される。約98万人が減額され、国が払わなくて済む年金の総額は毎年約7000億円に達する。それに対して65歳以降は合計月収46万円までは年金減額されないため、対象者が少なく、総額は約3000億円にとどまっている。
しかも、厚生年金は2025年に65歳支給へ完全移行する。年金を自動的に減額できる、国にとって“金のなる木”だった64歳以下の在職老齢年金受給者(減額対象者)がいなくなる。国庫(年金積立金)に入っていた年間7000億円の収入がなくなるのだ。
「今の64歳以下の働く高齢者の多くは合計月収46万円以下だから、現在の制度では65歳になると年金減額できなくなる。そこで厚労省は在職老齢年金の支給停止基準の見直しを行なって、今後は65歳以上も合計月収28万円を超えた分は年金を減額することを検討しています。そうすれば人口が多い65歳以上の働く団塊世代からももっと年金減額できるため、国庫に残るカネは毎年1兆円以上になるはずです」(年金問題に詳しい社会保険労務士)
現在64歳以下のポスト団塊世代の働く高齢者は、“65歳になれば年金を満額もらえる”と思っていたら、年金官僚が執達吏のように追いかけてきて働く限り年金をカットされることになるという指摘である。
そのうえ70歳までしか認められていない年金の繰り下げ受給(受給開始を遅らせる代わりに年金が増額になる制度)を「75歳選択制」にすることが検討されているのも、「75歳まで働いてきて年金をもらわずに我慢したら受給額がドーンと増えますよ」と甘い条件で年金支払額を抑えるためだ。
※週刊ポスト2017年9月29日号