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旅慣れた男性が人生で一度だけ部屋交換を求めた「最悪の宿」

 私はすぐにフロントに電話をし、部屋の交換を要求しました。フロントのスタッフは注射針をしげしげと見つめた後、「どこにあったんですか?」と尋ね、私が「ソファーの隙間です」と答えると、「そうですか」と、ひと言。特にお詫びのコメントはなく、「ではこちらの部屋をお使い下さい」と、新しい鍵を出してきたので、私は荷物を抱えていそいそと新しい部屋へ移りました。

 ベッドに横になると、

「もしあれが覚醒剤だったら、自分は逮捕されてしまうのか?」
「今ごろ、フロントの人間は『注射針を持っている怪しい客がいる』と、警察に連絡しているのではないか」
「2度と治らない病気に感染してしまったのではないか……」

 など、あらゆる最悪のケースが頭を駆け巡ります。しかしそのうち眠りについてしまい、翌朝、チェックアウトをすると、私の“事件”は引き継ぎされていないのか、ここでも詫びの言葉はナシ。結果的に私は、警察に拘束されることも、体調が悪化することもなく現在に至っているわけですが、あの宿が私にとって「人生最悪の宿」だったことは疑いの余地はありません。


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