かつては、円安効果で輸出企業の業績が押し上げられることで日本経済に好影響を及ぼすと言われていたが、最近では輸入価格の高騰などの負の側面も指摘されるようになっている。円安が日本経済に与えるメリットとは何か、元ドイツ証券副会長の武者陵司氏(武者リサーチ代表)が解説する。
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たしかに、悲観論者や懐疑論者が主張するように、ここまでの円安は輸出数量の増加に結びついてはいない。円安がもたらすエネルギー価格の上昇など、デメリット面の方が目立っている状況だ。しかし、これらマイナス面が目立つのは一時的なものにすぎない。なぜなら、円安効果が発揮されるプロセスが、以前とは変わっているからだ。
円安でも輸出数量が伸びないのは、現在の日本の輸出品の大半が、他国の企業と価格競争をする製品ではないからだ。円安によって、ドル建ての輸出価格を下げなくても、海外で売れる製品が多い。したがって輸出数量が伸びないのである。
では、円安のメリットはないのか? 実は、輸出数量の伸びを上回るメリットがある。円安によって、円ベースでの所得が増え、企業業績にプラスをもたらす。しかも、数量の増加よりも、円ベースでの所得の増加の方が、企業の限界利益率からすると業績への寄与度ははるかに大きい。こうした円安効果が遅れてやってくるのである。
2015年3月期の企業業績は、すでに史上最高水準となる、前年比1割程度の増益が予想されている。しかし、さらなる円安進行で上方修正は必至。それが日本株を押し上げるのは言うまでもない。
円安が持続すれば、製造業の国内回帰も期待できる。また、輸入数量が減っていくことから、国内生産も活発になる。特に、人件費の安い新興国の企業と競争を強いられていた中小企業には好影響を与えるだろう。
となると、いよいよ国内企業からは、待望の賃上げの動きが本格化することになる。アベノミクスの成功は誰の目にも明らかとなるはずだ。デフレ脱却のカギを握るのは、なによりも円安なのである。
※マネーポスト2015年新春号