ほかにもAさんは、売れている先輩芸人が後輩に1万円を渡して缶ジュースのおつかいを頼み、「おつりは取っておいていいよ」と言っている姿や、単独ライブを開催した先輩芸人が打ち上げ代数十万円を自分のポケットマネーで支払う姿など、先輩たちの太っ腹な様子を何度も目の当たりにしたそうだ。
しかしそれができるのは売れているからこそ。Aさんは、あまりにもそういった慣習が“当たり前”の業界にいるなかで、「売れないまま、芸歴だけ重ねる」ことの恐怖を徐々に感じるようになったという。
今は芸人としての活動は何もしていないため、おごる慣習とは無縁だというが、当時の状況をこう振り返る。
「自分がおごってもらってきたから、後輩芸人にもおごらなくちゃ、という意識はありましたね。そうはいっても当時は、自分が食べていくのもやっとという状態。年齢を重ねれば誰しもがおごることができるようになるわけではないのが実情です。私も、もしかすると、借金してまで後輩芸人におごらないといけない状況になっていたかもしれません。しかもちょっとやそっとの金額で済まないことが容易に想像されるので、考えただけでも震えます。年齢に関係なく儲かっている人がおごる、というのも先輩の自尊心を傷つけることがありますし……。独特な世界でした」