就職活動が終わった大学生の前に立ちはだかる最後の関門が卒業論文。大学を修める総仕上げとして、卒論が課される大学、学部は多いが、これを代筆してもらうのは罪なのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
就職が内定した女子大生の娘のことで悩んでいます。早々に内定をいただいたことで緊張感が緩んでいるのか、まったく学業に身が入っていません。しまいには「卒論も、お金を払って代筆してもらう」というのです。この返答には呆れましたし、卒論を買うこと自体、法に触れるのではないでしょうか。
【回答】
学校の試験関連の刑事事件といえば、替え玉受験があります。替え玉が受験生の名前を書いて答案を提出したことが「事実証明に関する文書」の偽造に当たるとして、私文書偽造の罪に問われました。その点、代筆者と共謀の上、論文を自分のモノとして提出するのは、偽造ではありません。
もっとも、大学を騙し、卒業するのは平たくいえば詐欺です。ただ、刑法上の詐欺は、騙して「財物の交付」や「財産上の利益」を受けることで成立しますが、大学卒業の資格は世間的に価値があっても「財産的価値」かは疑問であり、詐欺罪にはなりません。
しかし、大学は学位を授与するにふさわしい能力かどうかを判断するために卒論を提出させて審査するのですから、卒論を評価して卒業生の水準を保つことは、大学にとっても大切な業務といえます。