隠居の身である遠藤さんだが、方々手を尽くして100万円ほどは工面した。ユウヤに連絡すると、「それを持って東京に来てくれ。4時までに払わないと」と焦った声で急かす。急いで新幹線で東京駅に向かうと、「自動車が混んでいて東京駅まで行けない。京葉線に乗って越中島という駅まで来てほしい」と言う。越中島に着くと、今度は「駅から少し離れた駐車場に行って、弁護士が来るのを待ってほしい。お金はその弁護士に渡して」と指示された。背広を着て現われた「弁護士のタナカ」を名乗る男に、遠藤さんは現金100万円を渡した。
そのときだ。そばに隠れていた警察官がスーッと近づき、「警察だ!」男は金をぶん投げて逃げようとしたが、遠藤さんは思わず男の腕を掴んでこう叫んだ。
「ここさ、おまわりさんがいっぱいいるぞ。全員で囲んでるから逃げようがねえ!」
男を囲んだ警察官は全部で7人。男は観念してその場で逮捕された──。いったい何が起きたのか。
実は遠藤さんは途中で詐欺に気付いたのだが、警察に協力して“騙されたフリ”を続けていたのだ。遠藤さんが振り返る。
「途中までは完全に騙されていました。お金を用意して息子に電話したところ、怪しんだ息子が孫の会社に確認し、孫は普通に働いていることが分かったんです。それで頭に来たから『捕まえてやろう』と思って、警察に相談して一緒に東京まで行った。犯人に渡した100万円は警察に用意してもらったものです。空手をやっていたし犯人を怖いとは思わなかった。ただ、逮捕されたのは金を取りに来た男だけで、孫を名乗って電話してきた男はまだ逮捕されてない。そのことが残念でなりません」