利上げを実施しても米国景気は腰折れしない
私は、この綱引きは先進国経済の勝利に終わると考えている。最大のプレーヤーである米国の景気がいちだんと力強さを増すからだ。その牽引力となるのは住宅部門である。足元では、住宅の供給不足が鮮明だ。持ち家比率は下がり続け、15年の第2四半期には63・4%まで低下。過去、持ち家比率がこの水準にとどまっていたのは、1990年代前半である。当時は、その後94年から住宅ブームが到来し、持ち家比率は69%台に達することになる。
需要側の環境も好転している。雇用統計でもわかるように、雇用状況は大きく改善し、所得水準も上昇している。それを受けて、住宅ローンも借りやすくなっている。さらに、金融緩和のおかげで住宅ローン金利は低位安定を続けている。住宅ブームが再来する環境は整っている。今後、前回の住宅ブーム並みに持ち家比率が69%台に上昇すれば、およそ600万戸の住宅が供給される計算だ。住宅は、新たな耐久財の消費につながるため、その波及効果は大きい。数年にわたって、米国景気を支えることになるだろう。
個人消費や設備投資などもいずれも好調で、米国経済に死角らしい死角は見当たらない。住宅部門の需給逼迫が住宅価格の上昇期待を生み、景気をさらに牽引していく可能性は高い。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを実施しても、景気が腰折れすることは考えにくい。
16 年は欧州経済にも期待が持てる。景気は底打ちから、成長率が加速する局面に入ったと見ているからだ。ギリシャの債務問題も峠を越えた。欧州主要銀行へのストレス・テスト(健全性検査)は14 年に終了し、経営内容への不信感は一掃されている。15年から少しずつ積極的になっていた金融機関の融資姿勢は、16年にはさらに活発となるだろう。
イタリアやスペインといった南欧諸国の金融危機で冷え込んでいた消費意欲も大きく好転し始めている。銀行の融資が大きく伸びる余地がある。さらに、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、追加金融緩和の実施を示唆している。これは経済成長を確実にするための措置といえる。
中国経済の底割れは回避される可能性が高い
では、肝心の中国経済がどうなるのか、失速から底割れに至る可能性はないのか、といった点について検証をしたい。中国の金融当局は、人民元の維持に躍起だ。9月以降、外貨予約取引(売り取引のみ)の制限、個人の外貨転換の制限など資本規制を強化し、投機的な人民元売りを抑え込んだ。急減していた外貨準備高の減少ペースも鈍化したことで、人民元問題は小康状態に移行。人民元の暴落から世界金融危機に至る悪連鎖は遮断され、11月に人民元の切り上げを実施するところまで状況は改善した。
中国経済が大きくなりすぎたために、この世代交代には軋轢が伴うだろう。人民元の急落で金融市場が混乱することも考えられる。以上の前提から、16年の世界経済は、拡大する先進国経済と失速する中国経済の綱引き、という構図が当てはまるのではないだろうか。
ただ、中国当局が実施しているこれらの対策は、一時逃れの壮大な弥縫(びほう)策に過ぎない。これが中国経済の安定化と持続的成長をもたらすかは、はなはだ疑問である。しかし、まったく意味がないとは考えていない。次に想定される中国ショックまでに、時間を稼げるからだ。次に中国ショックが発生した場合、主要国は協調して景気対策を打ち出すことができる。例えば、米国の利上げの先送り、日欧では追加の量的金融緩和、そして主要国が協調した財政政策による需要創造などである。結局のところ、中国リスクは、今の世界経済の成長シナリオに大きな影響を与えるものではないのだ。