出世、結婚、資産形成……そうした人生の成功要因とされる物差しは、仕事も子育ても終えたリタイア世代には通じない。では長い後半生の“幸・不幸”を分けるものは何なのか。「行動経済学」の最新研究で、その境界線が見えてくる。
内閣府の調査によれば、シニアの住まいに関する満足度は、高齢者向け住宅が最も低く、賃貸と持ち家の満足度は倍以上も持ち家が上。持ち家神話は健在だった。
もっとも、人は狭い範囲で比較して幸福度を測る。例えば、高級住宅街に小さな家を持った人は最初は満足度が高いが、次第に、周囲の豪邸と比較して幸福感がしぼんでいく。反対に、公営住宅に住んでいる人は賃貸であることが余り気にならない。行動経済学の第一人者、筒井義郎・大阪大学名誉教授(甲南大学特任教授)が解説する。
「周囲と比較して劣等感を感じる環境の場合、引っ越しも幸福度を上げるのに有効な方法でしょう」
このように行動経済学では、数値の単純比較では測りきれない、人の心理的側面に注目する。幸福度はその最たるものだ。東洋大学経済学部の久米功一・准教授が語る。