「そもそも介護保険は、“利用者の要介護度が下がると事業者の収入が減る”というジレンマを背負った制度です。努力して良質なリハビリを提供し、利用者が要介護度3から2に改善したら、利用者は要介護度2の上限額までしかサービスを利用しなくなる。つまり、“よくならないほうが儲かる”という制度になっているわけです。そのため、国は『自立支援を促す』というフレーズを掲げ、利用者の要介護度を下げた自治体や事業者には別途ボーナス(介護報酬の加算)を出す、というのがインセンティブ制度の大枠です」
一見、もっともらしく聞こえる話だが、この制度は大きな危険を孕んでいる。都内で活動するケアマネージャーがこういう。
「要介護度が下がればボーナスが出るのですから、自治体や事業所のスタッフが認定を受ける人の要介護度を実際より下げて、“実態にそぐわない軽い介護度”にしてしまう心配があります。もともと要介護認定は、自治体の調査員による聞き取りがあるなど判定に“主観”が入ることを避けられない難しさがある。そこに“軽くしたほうが自治体も事業者も得”という動機づけ(インセンティブ)まで加わることへの不安が介護現場では囁かれています」
その土壌は整いつつある。今年、厚労省は訪問介護の利用回数が多い人に対して、自治体が設ける専門職らの会議で、その妥当性を判断する仕組みを導入する方針を固めた。“使い過ぎ”と判断されると、サービス利用を控えるよう自治体から求められる仕組みになるとみられている。