「ガッツはレッドオーシャンだから、そこで勝負しても無駄だよ」
競合相手がいない青い海をブルーオーシャンと呼びますが、レッドオーシャンは血で血を洗うような競争の激しい領域のことです。ガッツがあるのは当然の前提だから、それをアピールしても人材としての市場価値はないという意味です。仕事はストレスなく淡々とこなせて当たり前なのです。
もちろん世の中には、ガッツや気合いや効率化する能力がない人もいるでしょう。そういう人は「コンピュータにできないことで戦う土俵」に上がることすらありません。じゃあ、ガッツのない人間は生きていけないかというと、そんなこともない。コンピュータに効率的に運用される立場でよければ、生きる道はいくらでもあります。それは選択の問題で、上下関係ではありません。ここは同じ社会を生きる者として勘違いしてはいけないことです。
でも、そうではない生き方をしたいなら、ガッツはレッドオーシャンであり、旧来型の市場で必要だった資質にすぎません。それは当たり前に持っているとした上で、その人に何ができるのかが問われるのです。
コンピュータに負けないために持つべきなのは、根性やガッツではありません。コンピュータになくて人間にあるのは、「モチベーション」です。
コンピュータには「これがやりたい」という動機がありません。目的を与えれば人間には太刀打ちできないスピードと精度でそれを処理しますが、それは「やりたくてやっている」わけではないでしょう。いまのところ、人間社会をどうしたいか、何を実現したいかといったようなモチベーションは、常に人間の側にある。だから、それさえしっかり持ち実装する手法があれば、いまはコンピュータを「使う」側にいられるのです。
◆おちあい・よういち/1987年生まれ。筑波大准教授、学長補佐。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)認定スーパークリエータ。BBC、CNN、TEDxTokyoをはじめ、メディア出演多数。超音波を使って物体を宙に浮かせ、三次元的に自由自在に動かすことができる「三次元音響浮揚(ピクシーダスト)」で、経済産業省「Innovative Technologies賞」を受賞。2015年には、米the WTNが世界最先端の研究者を選ぶ「ワールド・テクノロジー・アワード」(ITハードウェア部門)において日本からただひとり、最も優秀な研究者として選ばれた。〈現代の魔法使い〉の異名を取る。
※落合陽一・著『これからの世界をつくる仲間たちへ』より