小学校4年生になった秋、父親が海外赴任から帰国すると突然彼は「今から家を見に行く」と言いました。当時、我が家は社宅住まいだったのですが、明確に友人の間では「持ち家」と「賃貸/社宅」の間にはヒエラルキー的なものがありました。持ち家に住んでいると「○○の家は金持ちだ!」ということになっていたのです。「お前ん家は賃貸かよ」とバカにする持ち家暮らしの同級生もいました。
それなのに当時38歳だった父は、家を買うと言い出したのです。当時「家を買う」ということは相当なお大尽にしかできないと思っていたのに、まさか父がそんなことを言い出すとは! その時に「ウチはそこまで貧乏ではないんだな」ということは理解したのですが、長年の「貧乏教育」により、10歳の段階で「抑えられた物欲」は身についていたのでしょう。
以後、周囲の友人が新しいファミコンのカセットを買ってもらったり、クリスマスと誕生日におもちゃを買ってもらうのを横目に見ながらも、プレゼントを要求することは特にありませんでした。今でもキャバクラに行くこともなければ、高価な文具や時計、靴、スーツを買いたいとも思いません。
「いい年してロクなものを持ってないな、お前」などと言われることもないですし、幼少期に身につけた「低物欲マインド」を今でも保てていることについては、本当に感謝しています。さて、私の母のような教育をお子さんにすることを勧めているわけではないのですが、私自身は母親による「ウチは貧乏」の押しつけには今は本当に感謝しています。ローンとか借金をする意味が一切分からず、ATMの残額を気にすることのない人生を送れているのですから。