パンプスからスニーカーに変わって気づいたこと
そうこうすること3か月。失業保険が出るのもとうとうあと1回となった。が、そこでやっとM子に新たな道が開けた。
「相談員に、これまでの就活の経緯と、どんな仕事がしたいかを話したら、『マンションの管理人が向いているんじゃないですか』と言われたの。管理人って掃除をする人でしょ。気が進まなかったけど、ぜいたくを言っていられる立場じゃないし」
半ばヤケクソで相談員に従ったら、トントン拍子。その日のうちに採用された。
「1日4時間で週に5日。時給1100円は悪くないし、7階建ての分譲マンション全フロアの掃き掃除は、汗びっしょりになるけど、やった仕事が目に見えるから達成感がある。それにね──」
慣れるまでは時間内に管理人の役割をこなすだけで精一杯だったけど、1か月を過ぎたころ、酒量が減ったことに気づいたそうな。
「営業をしているときは、あんなことを言って客に嫌われなかったかとか、上司の機嫌を気にしたりとか。いつも何か頭の上に乗っかっていて、それを忘れたくて深酒していたのね。それが最近はチューハイの力を借りなくてもコロッと寝ちゃう。飲みたいとも思わないの。これは、朝5時起きして体を動かしているからというだけじゃない。『ああ、終わった、終わった』と帰る道の清々しさといったら、これはやった人にしかわからないね」