「父の不満は、子どもが地元に戻ってこないことです。兄は、不況などまったく関係ない超安定企業に就職し、私は幼い頃から憧れだったファッション関係の企業に入ったので、2人とも地元に帰る気はまったくありません。
ただ実家には、代々受け継いできた畑があります。今のところ両親や祖父が畑の世話をしていますが、年齢的にもそろそろキツくなってきたので、『お前たちのどちらかが帰ってきて、面倒を見ろ』というのが父の言い分なんです」
実家の畑は、農業だけで暮らせるほどの広さはないが、祖父や曽祖父の苦労を知る父親は、大変な愛着を持っていた。もともと大学に進むことを強く希望したのは父親だったはずだが、最近では面と向かって「失敗だった」と言っているそうだ。
「父は、『同じ仕事をしても、高卒と大卒で給料が違うのはバカらしい。それならどこでもいいから大学に入って、そこを出たら地元の企業に戻ってくればいい』と思っていたようです。しかし兄も私も、いったん故郷を離れてしまうと、田舎街で働くことがまったく魅力的に映りませんでした。最近では、父は周囲に『勉強させすぎた』『地元の大学に行かせれば良かった』と言っているみたいです。本当に勝手ですよね」
今や実家は、「見るも無残なボロ屋」(Sさん)で、息子たちは修繕費を出すことを申し出ているが、両親は「将来、息子が住まないなら直してもしょうがない」と、それを固辞しているという。ボロ屋に住み、息子に不満を漏らす両親の姿を知るSさんは、兄としばしば「オレたちは親不孝なのか?」と語り合っているそうだ。