すると父親も、「こんなになっちゃったよ」と細い腕を突き出して見せながら、うっすらと笑ったんだわ。そして「頭を上げてくれ」って。上半身を起こしたベッドから、肩がずり落ちているのが気になるらしい。
ところが、私が、痩せた体をわきの下に手を入れて動かそうとしたけど、ピクリとも動かないの。
「頭。頭を上に動かしてくろよ」
かすれ声が不機嫌になる。
「じゃ、あっち持って」
ベッドの両側からA子と私で背中の下にグッと手を入れて、「よいしょ」。声を合わせてずり上げたら、「ま、よがっぺ(いいだろう)」って。
そしてすぐに、「氷」と自分の口を指さす。私じゃない。A子にスプーンで口に入れてもらいたいのよ。
その夜、父親は家の人に「A子がわざわざ東京から車で来てくれた」と喜んでいたそうな。「大勢、見舞い客がきて幸せだね」と言うと、「それだけおれは人に尽くしてきたんだ」と威張ったそう。
父親が息を引き取ったのは、その2日後だ。
「お疲れさま」
息を引き取ったばかりの父親に、自然とねぎらいの言葉が出た。
で、今、気になるのは、この春、還暦+1となる自分のこと。永眠する日まで、これまで以上に身を入れて働き、遊ばないと。
※女性セブン2018年2月22日号