2016年の投資環境は「機関投資家よりも専業個人投資家のほうが利益を出しやすいのではないか」というのは、国内小型株中心の運用で「R&Iファンド大賞」を4年連続で受賞した「ひふみ投信」の運用責任者・藤野英人氏だ。大型株が外部要因に左右されやすいなか、大きな利益を出しやすいのはやはり小型株。そこで肝心なことは、いかに機動的な投資ができるかどうか、だという。歴戦のカリスマ・ファンドマネージャーが、2016年の市場環境を読み解き、「買っていい株、いけない株」を徹底解析した。
日本株を待ち受ける3つの不安材料
2015年の日本株市場は、8月の世界同時株安を境に、相場の主役が次々と交代した。年前半は円安基調で輸出関連の大型株相場が続いていたが、8月の人民元切り下げなどに伴うチャイナ・ショックで大型株を中心に売られ、9月は小型株相場へと移行。それも長くは続かず、10月に入ると、日銀の追加金融緩和期待に加え、11月4日の日本郵政グループ3社の大型IPO(新規上場)によって再び大型株に注目が集まっている。
公募価格ベースでの配当利回りが約3%となる郵政グループの上場によって、株価の上昇余地は成長性だけでなく配当利回りの高い銘柄にもあることがわかり、当面は配当狙いも含めた大型株相場が続き、戻りを試す展開が予想される。ただし、このまま2016年も一本調子で上がり続けるわけではない。日本株には、以下の3つの不安材料が待ち受けているのだ。
1つ目が「米国の利上げ」。FRB(連邦準備制度理事会)が12月に利上げに踏み切らなかったとしても、16年中に実施される確率は極めて高い。2つ目が「中国経済の失速」であり、これは早晩解決するものではないだろう。そして3つ目が17年4月に予定される「消費増税」だ。消費税が8%から10%に引き上げられれば景気の腰折れにつながるのはほぼ間違いない。株価は半年~1年先の動きを織り込むものであり、早ければ年明けくらいから消費増税を懸念する動きが高まることも考えておいた方がいいだろう。
とはいえ、それら「3つの重石」はすでに明確に見えていることでもあり、突発的に株価が暴落する要素にはなり得ない。何より米国が利上げを実施できるのは景気がよい証拠であり、国内では景気を下支えする補正予算や軽減税率といった対策が講じられるのも必至の情勢だ。そう考えていくと、上値は重いが、下値も底堅く、いわば下げにくく上げにくい展開が予想される。日経平均株価でいえば、当面、1万8500~2万1000円程度のレンジで推移するのではないか。
機関投資家より専業個人投資家が有利
指数の値動きが重いことが予想される16年相場は、当然、それを構成する大型株にも大きな上昇は望めないだろう。 そのような難しい局面では、やはりその時々のテーマやニュースに反応する小型の材料株が物色対象になる公算が高いだろう。マンション傾斜問題で土木関連などが物色されたように、災害や事件、事故、あるいはノーベル賞といったニュースのたびに関連銘柄を探し求める動きが高まるに違いない。
そうなると、ファンダメンタルズなどを重視するが故に即座に反応できない機関投資家よりも、機動力の高いデイトレーダーをはじめとする専業個人投資家のほうが利益を出しやすい。その都度の材料に反応してシンプルに行動でき、シンプルに撤収できる機動性が功を奏する場面が増えてくるだろう。
もちろん中長期的な観点に立てば、短期勝負だけでなく、今後も成長が期待できる「よい会社」に投資する手法も有効といえる。たとえば次世代技術として注目が高まる「自動運転」、さまざまな分野への応用が期待される「ドローン(無人飛行機)」、あるいは「バイオ」や「eコマース」といった分野は長期的な市場拡大が期待できることに変わりはない。
これらは長期的なテーマであるが故に株価上昇には時間がかかるかもしれない。ただ、見方を変えれば、それら有望銘柄をじっくり仕込める1年になるだろうし、何かのきっかけで材料視されるようなことになれば短期的な値上がりも見込めるはずだ。その時は「まだ上がるはず」などと思い込んで持ち続けるのではなく、きっちり利益を確定するのも忘れずにしておきたいところだ。