2015年10月に大筋合意したTPP(環太平洋経済連携協定)交渉だが、経済アナリスト・森永卓郎氏は、合意内容を見て「日本政府は惨敗した」とショックを受けている。TPPスタートで日本社会の何が変わるのか、森永氏が解説する。
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TPPの大筋合意内容を見て、日本政府の「惨敗」には私もショックを隠せません。TPPが参加国の大筋合意通りで発効した場合、日本が最終的に関税を撤廃する比率は品目数ベース、貿易額ベースともに95%にも達するのです。
日本が輸入する農林水産品に限っても、51%が発効後即時、最終的には81%の関税が撤廃されます。たとえば、ブドウ、小豆、ツナ缶などの関税は即時撤廃となり、ワイン、オレンジ、鶏肉なども6~11年かけて撤廃されることになります。
それだけではありません。政府が「重要5品目」と位置付けたコメ、ムギ、豚肉・牛肉、乳製品、甘味資源作物についても大幅な譲歩がなされました。コメは関税を残しましたが、米国と豪州に7万8400トンの無税輸入枠を与えた。小麦は実質的な関税であるマークアップ(売買差益)を45%削減し、牛肉の関税は現行の38.5%から協定発効15年後に9%まで段階的に引き下げられます。その結果、日本の農林水産業が想定以上の大打撃を被るのは火を見るより明らかです。
これにより、日本人の生活も大きな変化を余儀なくされます。食生活では、米国や豪州から輸入した食料品が安く手に入るというメリットが考えられますが、その代わりに庶民の「食」が危険に晒されるという大きな懸念が生じます。
たとえば、米国の畜産農家は豚や牛に平気で成長ホルモンを与えていますし、穀物農家は収穫後の穀物に大量のポストハーベスト農薬を使っています。そうした米国の食料品がさらに安価になれば、日本の外食産業が率先して使うようになる可能性は高い。高級店であれば国産素材を使った安全な食料品が提供されるでしょうが、庶民は知らないうちにかなり危険な食品を食べ続けることになる事態も憂慮されるのです。
一方で、TPPは農業などの分野ではマイナス面があるが、日本の輸出産業に不利益をもたらしている相手国の関税がなくなるので、輸出企業にはプラス面が大きい。そう日本政府はいってきました。ところが、実際にはこの分野でも大きく譲歩してしまい、メリットはほとんど見えません。
たとえば、自動車での合意内容でいえば、米国が乗用車にかけている2.5%の関税が撤廃されるのは25年後です。さらに、25%と最も高い関税をかけられているトラックの関税撤廃は30年も先になるのです。
※マネーポスト2016年新春号