小売業界の苦戦が伝えられるなか売り上げを大きく伸ばし、いまや“勝ち組産業”となった100円ショップ。その中でも業界トップを走るダイソーの売り上げは、ここ16年間で2020億円から4200億円と倍以上にアップしている。
ダイソーの成長のカギとなったのは、消費者の「目利き力」にいち早く気づいたことだろう。創業当初、店を訪れて商品を見て回った主婦が発した言葉に、矢野博丈会長(74才)は大きな衝撃を受けた。
「ここでこんなものを買っても『安もの買いの銭失い』だよ。もう帰ろう」
長年にわたって矢野会長を取材し、『百円の男 ダイソー矢野博丈』(さくら舎)を著した作家の大下英治さんが言う。
「主婦の言葉にいったんは深く落ち込んだ矢野会長でしたが、すぐに『ちくしょう、どうせ儲からんのだし、いいもん売ってやる!』と発奮し、利益を度外視して高品質の商品を売り始めました。消費者は“悪かろう安かろう”をちゃんと見抜くのだと身をもって知ったのです。ときには商品の原価が98円ということもありました」
1つの商品につき、利益が2円では普通ならば到底商売としては成り立たない。それでも矢野会長は、「1円の利益でも1000万個売れば1000万円の利益になる」と従業員に発破をかけ、いくら原価が高かろうが100円で売り続けた。
「矢野会長は口癖のように“わしは100円の高級品を売っている”と言っていた。それだけ、1つ1つの商品に心血を注いだのです」(大下さん)
その一方で矢野会長は「わしはしゃべりがうまくないから、とにかく商品をたくさん並べて、商品にしゃべってもらう」とも語っており、多数のラインナップを取りそろえることにも尽力していたのだ。