ただ、看板の掛け替え後も、不祥事の連鎖は止まっていない。2015年にはサイバー攻撃による125万件の個人情報流出、2017年には元公務員の配偶者ら約10万6000人に対して、過去最大となる約598億円の支給漏れが発生している。年金問題に詳しいジャーナリストの岩瀬達哉氏が指摘する。
「旧・社保庁は厚労省年金局のガバナンスが及ばない組織で、厚労省から来たトップより労働組合の委員長が幅を利かせ、大口の取引先に天下りポストを作り、記録の管理は杜撰だった。そうした腐敗があったから、国民の信頼を決定的に失ったわけですが、年金機構にはその信頼を取り戻さなくてはいけないという意識が決定的に欠けている。“国民のため”という意識がなく、機構の職員が楽をしようとしているだけだと思われても仕方がない」
それは、機構が委託先の仕事が杜撰であると知りながら放置していたという経緯からして明らかだ。
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ITジャーナリストの佃均氏が解説する。
「データ入力を委託されたSAY企画は従業員が80人しかいないにもかかわらず、約1300万人分のデータを受注していた。最初から無理のある契約だったのです。しかも、落札価格は相場の4割程度と異常に安かった。SAY企画が入力作業の一部を中国の業者に再委託する契約違反をしていたことも明らかになりましたが、不正を犯しそうだとわからないほうがおかしいくらいです。
しかも、機構は昨年10月の時点でSAY企画が『800人態勢で作業にあたる』と説明していたのに、実際には百数十人しか人員が用意できていないことを把握していた。にもかかわらず、“代わりの業者が見つからない”として契約を続行して追加データまで渡していた」
つまり、機構は問題を放置し続けたのだ。中国の業者への再委託にしても、今年1月初めの特別監査で把握しながら、2か月以上も公表していなかった。
2月上旬には、同15日の年金支給に先立って送付された振込通知書を見た受給者から、“年金額が少なすぎないか”という問い合わせが相次いでいたにもかかわらず、専用相談ダイヤルを設置したのは年金支給日2日前の2月13日になってから。しかも、ホームページに文書をアップしただけで、報道各社に広報しようともしなかった。
年金受給者に対して“機構のホームページを見ないほうがおかしい”と言っているに等しい。