首都圏のマンション市況は新築も中古も価格が上昇したエリアとそうでないエリアの二極化が進んでいるという。不動産の市況調査を手がける東京カンテイ市場調査部の井出武・上席主任研究員が解説する。
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2015年は、新築マンション市場も中古マンション市場も、大幅に価格が上がるエリアとそうでないエリアの濃淡が非常にはっきりと浮き彫りになる1年だった。
価格が上昇基調にある東京23区内でも、その傾向は顕著だ。港区など都心のブランド地区は引き続き、海外の投資家や富裕層にも人気があり、物件は高価格帯で推移している。1億円以上の「億ション」も都心の人気エリアでは売れ行きが好調だ。
さらに2015年は、2つの大型新築物件が都心に登場し、注目を集めた。三菱地所レジデンスなどが開発する地上60階建ての「ザ・パークハウス 西新宿タワー60」(新宿区)と、東京建物などが手がける目黒駅から徒歩1分の「ブリリアタワーズ目黒」(品川区)だ。ともに2017年の引き渡しに向けて建設中だが、すでに完売している。
「ザ・パークハウス 西新宿タワー60」(最高価格3億5000万円、最多価格帯6100万円台)は今年2月に第1期販売分325戸を即日完売、「ブリリアタワーズ目黒」(最高価格4億5900万円、最多価格帯5800万円台・5900万円台)は7月に第1期販売分495戸を即日完売し、大きな話題となった。
両者はランドマークとしての付加価値があり、富裕者層の相続税対策や投資をはじめ、実需、インバウンド(訪日外国人)も含め、さまざまな層の二―ズを満たす物件として成功した例だろう。
特に富裕者層と呼ばれる人々は資産の付け替えや相続税対策などで、魅力的なマンションを資産に組み込んでおきたいと考えており、付加価値の高いマンションを見つけては買う傾向がある。すでに不動産を複数所有している富裕者層が「これは買ってもいい」と思うような魅力のある開発プロジェクトの物件は、高額でも売れ行きがいい。
ただ、都心でも価格が高いだけの物件は苦戦しており、売れ残っている場合もある。そういう意味では、開発プロジェクトによって売れ行きの濃淡があるのも今年の特徴といえよう。
高額物件の売れ行きが好調といった景気のよい話題が出てくると、周囲からよく聞かれるのが「今はバブルなのか?」という質問だ。答えを先にいえば、バブルではない。もしバブル期であれば、必ずスプロール(外側に広がる動き)という現象が生じるからだ。
たとえて説明すれば、価格高騰が都内全域に広がって都下(23区を除いた市町村)でも4000万円台のマンションを買えなくなり、他県までその価格帯の物件を探しにいかないと見つからないような状況が出てくるのが、「バブル」なのである。
だが、現在はそういう状況ではない。億ションが売れる都心のブランド地区は一般のサラリーマンには手が出しにくい高価格水準にあるが、23区内には手が届きそうな安値水準のエリアも多い。同じ23区でも価格帯に濃淡があり、都心よりも価格が安い下町エリア内でも台東区や江東区は価格水準が比較的高く、足立区や江戸川区は低価格水準にあるなど二極化が進んでいる。
首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)をみても、都下、千葉県、埼玉県などでは価格が低い水準のままのエリアも目立つ。たとえば、都下で根強い人気がある武蔵野市、三鷹市は価格水準がかなり高いが、その外周部に視野を広げれば、調布や府中など手ごろな価格水準の地域もある。
一方、郊外であっても、東京都立川市や川崎市中原区など、開発が進むエリアは価格が上昇している。この傾向は当面、続くだろう。
※マネーポスト2016年新春号