2015年は中国経済の失速が顕在化し始め、これまで3年間、右肩上がりで上昇してきた日本株も、その上昇スピードを緩めざるをえなかった。元ドイツ証券副会長・武者陵司氏は、「2016年の世界経済は、拡大する世界経済と失速する中国経済の綱引き、という構図が当てはまるのではないか」と分析している。それが日本経済にどんな影響を与えるのか、武者氏が解説する。
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肝心の中国経済がどうなるのか、失速から底割れに至る可能性はないのか、といった点について検証をしたい。
中国の金融当局は、人民元の維持に躍起だ。9月以降、外貨予約取引(売り取引のみ)の制限、個人の外貨転換の制限など資本規制を強化し、投機的な人民元売りを抑え込んだ。急減していた外貨準備高の減少ペースも鈍化したことで、人民元問題は小康状態に移行。人民元の暴落から世界金融危機に至る悪連鎖は遮断されている。
同時に、利下げや、インフラ向け支出の拡大といった財政出動も表明し、一定の効果を上げている。当面、人民元の暴落、中国経済の底割れは回避される可能性が高いのではないか。
ただ、中国当局が実施しているこれらの対策は、一時逃れの壮大な弥縫策(びほうさく)に過ぎない。これが中国経済の安定化と持続的成長をもたらすかは、はなはだ疑問である。しかし、まったく意味がないとは考えていない。次に想定される中国ショックまでに、時間を稼げるからだ。
次に中国ショックが発生した場合、主要国は協調して景気対策を打ち出すことができる。例えば、米国の利上げの先送り、日欧では追加の量的金融緩和、そして主要国が協調した財政政策による需要創造などである。結局のところ、中国リスクは、今の世界経済の成長シナリオに大きな影響を与えるものではないのだ。
◆先進国の中で最も割安で魅力的な市場が日本株
翻って、日本の現状はどうか。すでに、日本企業の利益率は、リーマン・ショック前の水準を超えて過去最高となっている。企業収益の増加が実質賃金の上昇につながり、好循環が始まりつつある。だが、今のところ、そうした好循環は需要には結びついていない。
その理由は、アベノミクスのスタートによって、いったん浮揚した人々のポジティブなマインドが、2014年の消費税増税で腰折れしたからだ。そのネガティブな状態が続く中、すでに2017年4月の再増税に人々の目は向き、マインドは萎縮したままになっている。
しかし、今後の状況を冷静に眺めれば、再浮揚するきっかけは少なくない。消費税再増税に向けて、政府・日銀による景気拡大策は必至。財政出動および追加金融緩和がセットで実施される可能性も十分考えられる。
そこへ、米国の利上げが加わったことで、ドルは上値を切り上げ、円安が進行する。新たな財政・金融政策に円安が加わることで、ネガティブなマインドは払拭されるだろう。その結果、アニマルスピリット(*注)が復活し、リスクをとって投資する意欲が高まれば、株価は大きく反応するはずだ。1ドル=125円を超えて円安が進行すれば、さらなる上値も期待できる。
【*アニマルスピリット/投資行動の動機となる、将来に対する主観的な期待。元々は英経済学者・ケインズが著書の中で用いた言葉】
日米欧の先進国間で、最も経済が強いのは米国であることは論をまたない。だが、米国の株価はすでに大きく上昇してきたため上値余地は小さい。それに対し、日本株のPBR(株価純資産倍率)などのバリュエーション(株価価値)は先進国最低水準で割安さが際立つ。上値余地から考えると、日本株は最も魅力的な市場となっている。
アベノミクス相場が始まって以降、株価は最大2.4倍となったが、企業の大幅増益により、割安感は薄まっていない。中国経済次第という側面はあるものの、2016年の日経平均株価は2万5000円を目指すだろう。
過去20年間、主要国の名目GDPが3倍、4倍と成長する中、日本経済だけが麻痺したかのように成長が止まっていた。その日本が、20年間の雌伏を超えて復活しようとしている。これは疑いようのないメガトレンドといえるだろう。弱気になる必要はどこにもない。日本株の長期上昇シナリオは、今も継続している。
※マネーポスト2016年新春号