退職してリタイア生活に入るまでに貯蓄はいくら必要か――老後マネーの問題はそんな金額ベースで議論されがちで、「年金以外に3000万円」などといった“定説”もある。
が、そうした考え方には大きな「落とし穴」がある。生活費や住居費、あるいは医療費や交際費などの支出がそうした試算のもとになっているが、それらには「万が一のアクシデント」に伴う支出は含まれていないのだ。
たとえば健康診断で重病が見つかって長期入院を余儀なくされた場合、その費用を捻出するために生活費を切り詰める必要が出てくる。持ち家の価値が暴落しようものなら、老人ホームの入居費用として売却するという計画は破綻し、終の棲家を失うことにもなりかねない。
想定外の出来事が発生すれば、急にまとまったカネが必要になるだけでなく、老後のマネープランを根本的に練り直す必要に迫られる。
もちろんそうした災難が起きない可能性は高い。だが、自分に降りかからない保証もない。「人生100年時代」を迎えて老後期間が長引けば、「万が一」が“万が二、万が三……”と増えていく心配も増してくる。
貯蓄や資産が十分にあれば予想外のトラブルにも対処できる――その通りかもしれないが、現実は厳しい。淑徳大学教授(社会福祉学)の結城康博氏が語る。
「60代世帯の平均貯蓄額は約2200万円ですが、この数字はごく限られた超高所得者が押し上げているため、ボリュームゾーンは1000万円台前半とみられています。老後の必要額として示される“貯蓄3000万円”にさえ遠く及ばないのが現実で、“貯蓄を増やす”という解決策は机上の空論でしょう」
まして、すでにリタイア生活に入っていたら、貯蓄アップは望むべくもない。