「定年後の田舎暮らし」に憧れる人は多い。大正大学・地域構想研究所の調査では、大都市圏に住む30~50代の正社員4割超が、支援があれば地方に「移住したい、または検討したい」と回答した。
しかし新たな住居費やリフォーム費用などが発生することに加え、買い物も不便なことが多く車を持つ必要性も出てくる。
暮らしぶりも予想と異なることが多い。定年後、甲信越地方の小さな集落に移住した男性(67)は、「田舎はスローライフじゃなかった」と打ち明ける。
「水路の泥上げや草刈りなど集落の行事がひっきりなしにあり、公民館単位の趣味サークルや子供たちの登下校見守りにも駆り出されます。人口が少ないのにイベントや団体活動が多く、のんびりできません。
移住前に『地域活動には参加すべき』という新聞記事を読んだので極力参加していますが、逆に“イヤイヤやらされている感”が出ているようで、村の長老たちから『嫌ならやらんでいい』と怒られてばかりです」
それでも夢を諦めきれず移住を強行すると「身内の反乱」に遭うこともある。
「定年後の夫が田舎暮らしを望んでも、いま住んでいる地域に友人の多い妻が、移住を拒否するケースが多い。反対を押し切ろうとして夫婦仲が冷え込むと、老後生活の思わぬ支障となります」(FPエージェンシー代表の横川由理氏)
まずは淡い夢から覚めて、現実を直視することが肝要だ。どうしても住みたい土地があるのなら、定年前に足を運び、住環境をリサーチすることも必要だろう。年齢とともに消費支出も減る中で、「田舎の生活コストの安さ」を享受できる範囲は限られてくる。何より「オレに付いて来るはず」との幻想を捨てて、妻と話し合っておくべきなのは言うまでもない。
※週刊ポスト2018年6月1日号