「1人暮らししているお父さんが脳梗塞で倒れた。もう長くないかもしれない」──兄から連絡を受けたA氏が病院に駆けつけると、妹もすでに到着していた。兄妹全員が顔を揃えるのは3年ほど前に他界した母の葬儀以来だ。
付き添いなどの看病などは近くに住む妹がやってくれることになったが、意識の戻らない父親を前に、初めて“父親が死んだ後のこと”を3人で話すことになった。
「実家はどうするか」「どれくらいの預貯金があるのか」──父親に何も聞けない以上、自分たちだけで話し合うしかない。だが、兄も妹も「私はこう思う」というばかりで、話し合いの前提さえ定まらない──。
このとき、「親子全員で早く家族会議をして相続について決めておけば」と、思っても後の祭りである。
こんな事態を防ぐために、親が生前のうちに家族会議を開くには、いつ、誰が、どのように切り出し、何を話すのがいいのか。兄弟姉妹が遠く離れて暮らし、疎遠になっていると、親族の葬式や法事でしか顔を合わせないというケースも多い。
「機会が限られる以上、正月でも盆でも法事でも、直近の機会で設定するのがいい。会うタイミングより重要なのは、“会うまでの期間”。相続は家族内の問題であると同時に、法的な手続きを伴う“契約”でもある。だからビジネスと同じく“形式”や“根回し”が必要になります」(まこと法律事務所代表・北村真一弁護士)