株式会社「御用聞き」の代表を務める古市盛久さん(39)の日常は、超高齢社会に突入した日本の縮図ともいえるものだ。古市さんが経営する御用聞きは、5分100円からの家事代行を行う会社だ。電球や電池の交換、宛名書きなどを請け負う。「ビンのフタを開けてほしい」という依頼が全体の1割にも及ぶという、人の小さな願いに寄り添う仕事である。
2010年。ゼロからたったひとりで始めた新たな業界。「御用聞きって、スーパーのものを売る人?」そんなふうに思われた。
開業から1年ほど経ったある日の夕刻、小学校低学年の女の子が、事務所に飛び込んできた。「お父さんとお母さんのけんかをやめさせて!」。少女は、手のひらの百円玉を差し出した。為す術なく立ちすくむ自分がそこにいた。
なかなか軌道に乗らない日々。それを変えたのは、『タニタ食堂』で名を馳せた株式会社タニタの前代表取締役会長で経営コンサルタントの谷田大輔さん(76才)との出会いだった。
谷田前会長の三男が「これからの社会は御用聞きのような役割が必要だ」と社会の課題解決について大輔さんと話していたところ、たまたまテレビに古市さんが映っていた。
その縁で、三男が御用聞きを体験するなどして懇意に。谷田前会長は、御用聞きの会長に就任した。「会話で世の中を豊かにする」と、同会長とのコンセプト作りは半年間に及んだ。