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トルコ大統領選・議会選迫る。トルコリラはどうなる!? シナリオを分析し市場の反応を想定

 トルコの大統領選と議会選が6月24日(日)に行われます。その結果が今後のトルコリラの動向に影響を与える可能性があります。本稿では、想定されるトルコリラの反応をマネースクエアのシニアアナリスト・八代和也が分析します。

選挙を前倒ししたのは?

 大統領選と議会選は当初、来年11月3日の予定でした。それが約1年5か月前倒しされました。

 エルドアン大統領には、景気が好調なうちに選挙を行いたいとの考えがあったと思われます。トルコの2017年のGDP成長率は前年比7.4%と、中国を上回りました。ただ、インフレ率は依然として高く、経常赤字は拡大傾向にあります。加えて、足もとの原油高やトルコリラ安も経済の下振れ要因です。トルコ経済は今後失速する可能性があります。

大統領選には6名が立候補

 トルコでは今回の大統領選後、「議院内閣制」から「大統領制」に移行します。大統領の権限が大幅に強化されて、副大統領(新設。首相職は廃止)や閣僚の直接任命権のほか、議会の解散権などが付与されます。

 大統領選には、以下の6名が立候補しています。
・エルドアン氏(現職。公正発展党党首)
・インジェ氏(共和人民党議員)
・アクシェネル氏(元内相。優良党党首)
・デミルタシュ氏(国民民主主義党の前共同党首)
・カラモッラオール氏(幸福党党首)
・ぺリンチェキ氏(愛国党党首)

◆3つのシナリオと想定される市場の反応

(1)エルドアン大統領再選。議会選でAKPとMHPの両党で過半数を獲得
 もっともあり得るシナリオです。現在の政権が継続し、政治の不透明感が払しょくされることで、初期反応は「上昇」か。ただし、エルドアン大統領は金融政策への関与を強めることを示唆しているため、TCMBの独立性をめぐる懸念は残存するとみられます。これまでの放漫な経済政策を修正しないのではないかとの懸念もあります。トルコリラにはいずれ下落圧力が加わる可能性があります。

※AKP:公正発展党、MHP:民族主義者行動党

(2)エルドアン大統領が再選。AKPとMHPの両党が過半数を獲得できず
 相応にあり得るシナリオです。大統領と議会多数派が異なる“ねじれ議会”となることで、トルコリラはいったん売られる可能性があります。ただし、議会が強権的な手法が目立つエルドアン大統領のブレーキ役として機能する可能性もあります。ブレーキ役への期待が浮上すれば、トルコリラは上昇に転じる可能性があります。

(3)エルドアン大統領が再選を果たせず(=大統領選で野党候補が勝利)
 可能性が低いシナリオです。大統領が交代することで政治の先行き不透明感から、当初はトルコリラが売られる可能性もあります。一方で、CHP(共和人民党)のインジェ候補は中銀の独立性を保障すると明言しており、TCMBの独立性をめぐる懸念が払しょくされそうです。また、高インフレや拡大する経常赤字への対策が進むとの期待が浮上する可能性もあります。中長期的にみた場合、トルコリラにとって好ましいのはこのシナリオかもしれません。

※大統領選で有効投票数の過半数を獲得する候補者がいない場合、上位2名による決選投票(7月8日)が行われます。決選投票が行われることが決まった場合、政治の不透明感から、トルコリラは決選投票に向けて軟調に推移する可能性があります。

エルドアン大統領が優勢も、予断を許さない状況

 各種世論調査をみると、エルドアン大統領が第1回投票で有効投票の過半数を獲得するかは微妙な情勢のようです。

 フォーサイト・ダニスマンリクの調査(6月7-11日に実施)では、エルドアン大統領が第1回投票で50.8%得票となり、当選を決めるとの予想が示されました。一方、Geziciの調査(6月2-3日に実施)では、エルドアン大統領は第1回投票で47.1%の票を獲得するとの予想が示されました。エルドアン大統領の支持率は、世論調査の多くが40%台半ばです。

 ただ、7月8日の決選投票にもつれ込んだとしても、エルドアン大統領が再選する可能性が高そうです。決選投票が行われる場合、エルドアン大統領の相手はインジェ氏かアクシュネル氏のどちらかになるとみられますが、世論調査ではエルドアン大統領がいずれの候補に対してもリードしています。

 議会選は、AKPとMHPの両党で過半数の議席を獲得できるか微妙です。両党の予想得票率は、フォーサイト・ダニスマンリク調査が50.5%と過半数を超える一方、Gezici調査は48.7%と過半数に届きません。

トルコリラは大きく動く可能性あり

 大統領選はエルドアン大統領が優勢なものの、第1回投票で過半数を獲得できるかは微妙な情勢。また、議会選はAKPとMHPの両党と、CHPなど野党の接戦です。今回の大統領選と議会選は予断を許さない状況であり、トルコリラは大きく変動する可能性があります。6月25日(月)の為替市場は、22日の終値から大きく乖離して始まることもあり得るため、要注意です。

(マネースクエアシニアアナリスト 八代 和也)

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