通知に強制力はないものの、“赤札”とも取れる『ご案内』が来たら税務署に相談に行った方がいい。
税務署は、国民1人1人の過去の収入(所得)、不動産の売買記録、株や債権などの金融取引まで膨大なデータが蓄積された国税庁のKSKシステム(国税総合管理システム)から相続税の申告が必要だと考えているのであり、無視して申告しないでいると、「相続税の件でお宅に伺います」という税務調査の連絡が来ることになる。相続税の時効は5年。“マルサ”は忘れた頃にやって来ることもある。
元国税調査官の税理士・武田秀和氏は、税務調査で重点的に調べられるポイントをこう指摘する。
「相続税の申告漏れには3つのパターンがある。1つは土地や有価証券の評価を低く見積もって申告しているという『評価』の誤り。2つ目は、法定相続人の数が違うとか、小規模宅地の特例を適用しているが、実際は要件を満たさないという『法定要件』の誤り。しかし、それらは書類だけでもわかる。わざわざ実地調査をするのは、3つ目の相続財産の『漏れ』つまり財産隠しを見破るためです。
よくあるのが亡くなった親が生前に子供名義の通帳に資産を移す名義預金。逆に親のカネを子供が使っていた場合も申告漏れになる。家財道具や宝石、書画骨董などを申告していないと指摘されるケースも多い。数百万円の宝石ならともかく、母親が持っていた数十万円程度の指輪などの宝石類、父親が趣味で買った骨董などは相続財産として申告しない人が多く、税務調査では見逃してもらえません」
税務調査員の指摘により相続税で追徴課税される場合、その平均は591万円にもなる。これは所得税の121万円の約5倍の水準だ。
もっとも、追徴課税の対象になるのはあくまで悪質な申告漏れだ。
実家の土地と家を相続したとき、勝手に計算して相続税ゼロと判断し申告の作業をせず、無申告だったため減免措置を受けられなかったAさんのような“うっかりミス”の場合は、「税務調査員の指摘を受けて申告しても、税務署がやむを得ない事情があったと宥恕(ゆうじょ)規定(*)を用いることがあります。その場合、小規模宅地の特例を適用し、結果的に相続税ゼロで延滞税も取られないという温情が認められる可能性もある」(武田氏)という。
【*「宥恕」とは「寛大に取り扱うこと」。税法上の特例を受ける権利がありながら、届け出がない場合などにおいて、税務署長がやむを得ない事情があると認めたときは、後日提出してその特例の適用を認めるという規定】
相続するものがあれば、“申告ありき”で考えるのが、これからの時代の常識なのかもしれない。
※週刊ポスト2018年7月6日号