録音している側に悪意がなくても…
さらに厄介なのは、録音している側に悪意はないのに問題に発展するケースだ。雇用延長で働くC氏(63)は、こう話す。
「若手社員の相談を聞くための飲み会で、部長のパワハラの話が出たんです。内心“若い連中はまだまだ甘いな”と思ったものの“アイツは昔から荒っぽい言い方しかできないし、直らんのだよ”とほどほどに同調しておいた。
そうしたら後に彼らがパワハラ相談室に訴えた際に、“Cさんもパワハラだと認識してくれていました”と私の音声まで資料として提出していた。若手の1人が、貴重な話が聞けても酔うと忘れるからと、律儀に録音していたようなんです。そんなヤツがいると思わないじゃないですか。こちらは定年後の身だから社内のゴタゴタに関わりたくないのに」
自営業のDさん(55)も、こんな目に遭ったという。
「商工会の会合で2次会のカラオケが盛り上がって、私も30代女性とノリノリでアドリブを交えながらデュエットしたんです。そしたら後日、妻に“あなた、商工会でずいぶん調子に乗っていたのね”と嫌味を言われたんです。若手メンバーが動画を撮影していて、それをSNSに〈Dさん、上手~い〉と載せたのが拡散されて、妻の目にとまった」
ネットに投稿した人に悪気がないため、Dさんは誰にも文句を言えず妻の嫌味に耐えるしかなかった。上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)はいう。
「多くの人が高性能カメラとICレコーダーを兼ね備えたスマホという記録ツールを常時携帯して使いこなすのが当たり前になっています。とりわけ若い世代はSNSで日常の出来事を発信することに慣れているので、“そんなものも!?”と驚くようなことも記録しています。不用意な発言は注意しないといけませんし、酒の席では常に“録音されているかもしれない”と意識するのがちょうどいいくらいかもしれません」
とても酔えそうにない。
※週刊ポスト2018年7月6日号