だが、それこそジリ貧の選択だ。趣味や旅行にお金が使えずに老後が暗くなるだけでは済まない。
定年後の「未来年表」を考えると、人生が長くなるほど、まとまったカネが必要になる場面は確実に増える。自分や妻の病気や介護の出費、家のリフォームも必要になるだろう。老人ホームに入居するにも相当額のカネがかかる。いざそうなったとき、「貯金が減るから」と必要なカネを使わず、家にこもって“細く長く”貯金を大事に使うだけでは、老老介護で疲れ果て、精神的にも追い込まれていく。
「出ていくカネ」だけを数えるとどうしても悲観的になってしまう。ならば、「入ってくるカネ」に目を向けると違った景色が見えてくる。
1億円の「超・安定収入」
人生100年時代は「生涯年金収入1億円」の時代になると聞いたら驚く人が多いだろう。夫婦で月額約22万円の年金を85歳まで受給すると総額は5280万円だが、100歳まで35年受給すると9240万円になる。ざっと1億円だ。
寿命が延びる中で老後の人生を豊かに送るためには、この1億円の“年金預金”や老後貯金の使い方のコンセプトの大転換が欠かせない。
見落としてはならないのが、高齢者を取り巻く社会環境そのものが大きく変わることだ。そこにチャンスが生まれる。相沢幸悦・埼玉学園大学経済経営学部教授が指摘する。
「日本社会では長い間、リタイアした無職の高齢者は現役サラリーマンより社会的信用が低いと見られていた。銀行はカネを貸したがらないし、賃貸住宅を借りようと思っても、高齢者に貸すのを嫌がる大家が多かった。だから、多くの国民は現役のうちに住宅ローンを組んで“終の棲家”のマイホームを買い、定年後に備えて貯金に励んできたわけです。しかし、これからは間違いなく高齢者の社会的信用が高まります」