たかが5万円で将来的な年間200万円を失うことに…
もちろん、不当に安い金額を提示しているわけではありません。たとえばA社に関する新聞の論調を30本の新聞記事を読んでレポートを書いてほしい、といった仕事があったとしましょう。新聞を読むのに2時間、考察をするのに3時間、実際にレポートを書くのに3時間、合計8時間というのが自分では予想できます。その手間をかける余裕がないため外注先にはこの仕事を20万円で出すわけです。これってオレの3週間分の給料だぞ!なんて思うものの、外注には多く払うべき、という考えもあります。しかし、この人は「20でなく25になりませんかね? ちょっと20では割に合いません」なんて言ってきます。
こちらの答えは「スイマセン……。20万円しか予算がないんです」としか言えず、「ならば別の方に頼みます。今回は話を聞いてくださいましてありがとうございます」という結論になる。5万円多くもらうことが、この方には重要だったのかもしれませんが、社員だったあの時「たかが5万円で将来的な年間200万円を失うってこいつはバカか?」と思ったものも事実です。周囲の先輩社員の間でも「あの人はカネにうるさいんだよね……。もう別の人に頼もう」といった声は時々聞こえていました。
そうした経験があったがために、私は自分がフリーになった後も一切のカネの交渉をしたことはありません。あくまでも先方の言い値でやります。これを言うとフリーの仲間からは「あなたのクライアントはまともだからそうなるのだ。オレのクライアントなんて未払いやギャラ減額なんて日常茶飯事だ。あなたは甘い!」と怒られることがあります。
まぁ、とはいっても、私自身そんな鬼畜的な発注主に会ったことがないので、こういう考えになってしまったわけです。言われた金額で淡々とやり続けていたら、いつしか「あの人はカネにうるさくない」という評判が立ち、仕事が仕事を呼ぶ循環を作ることができました。もちろん「1日九州へ出張をして、交通費は出すので旅行気分で楽しんで来てください。3000文字書いてギャラは1万円です」みたいなものは断ります。これはもはや仕事ではない。単なる苦行です。