ファストファッションやコンパクトカーが消費者の人気を集めているのと同様に、ブランド的な付加価値よりも実用性を重視する傾向は不動産業界にも確実に押し寄せている。不動産の市況調査を手がける東京カンテイ市場調査部の井出武・上席主任研究員によると、若い世代の間では「名より実を取る消費」がスタンダードとして定着しているという。
「近年の購入者層は不動産のブランドや地域ごとのヒエラルキーにとらわれず、利便性とコストパフォーマンスを重要視しています。また、単身者や子どものいない世帯も増えてきているため、個々人の通勤事情を最優先して物件を購入するケースも少なくありません」(井出氏、以下同)
そうした状況にあって、東京23区内の不動産市場でにわかに注目を集めているのが城北・城東の「下町」と呼ばれてきたエリアだ。2012年に東京スカイツリーが竣工して以降、「住む場所としての下町」の再評価が進んでいると井出氏は語る。
「スカイツリー効果とそれに伴う下町ブームの影響もあり、北千住や日暮里、赤羽などの物件の需要が高まっています。地価や物価の安さはもちろん、地域に密着した個性的な店も多く、若年層への訴求力が高い。なによりも都心へのアクセスが良好な点が支持を集めている最大の理由でしょう」
ここ数年、「穴場の街」として人気となっている北千住の場合、JR・東武鉄道・東京メトロ・つくばエクスプレスの計5路線が乗り入れる利便性に加えて、複数の大学を誘致して駅前の再開発にも着手。さまざまな世代にとってメリットのある住環境が整備されている。
首都圏では不動産価格が高止まりしていることもあり、大手私鉄沿線の高級住宅街をはじめとした一等地の物件は購入者の予算と釣り合わなくなってきているのが実状だ。“ノーブランド”でも割安感のある地域に目が向けられるのは自然な流れだと言えるだろう。