ここに至るまでに、この悪しき慣習が日本企業の経営を歪める事例が相次いだ。
たとえば、2015年に発覚した東芝の不正会計事件は、相談役ら社長経験者の確執で経営が混乱した結果だった。シャープも相談役と会長の“内ゲバ”で経営が迷走し、巨額の負債を抱えて台湾の鴻海精密工業に買収された。NECも“院政”を敷いた相談役が経営に介入して混迷を深めた。富士通に至っては内部抗争の結果、元社長が「虚偽の理由で辞任を強要された」として会社を訴える事態になった。
「老人のケンカは幼稚園児のケンカよりも始末が悪い」と言った東芝の元役員がいるが、まさにその通りだ。
なぜ、日本企業で相談役・顧問制度が蔓延ってきたのか? 終身雇用(ライフタイム・エンプロイメント)の名残で、会社人間でやってきた人たちが自分の人生を会社と同一に考えてしまっているからだ。逆に言えば、会社以外の自分の人生が考えられないのだ。
つまり、出世して経営者にまでなった人たちでも、哀しいかな「ライフプラン」そのものがないのである。だから役員を退いても「秘書」「黒塗りの車」「執務室」や「ゴルフ場の法人会員権」「経済団体などの役職」に固執し、相談役や顧問として居座るのだ。実際、完全にリタイアした後は所在ない日々を送っている寂しい人が非常に多い。
たとえば、財閥グループの役員OB向けサロンを覗くと、OB同士が食事をしたり碁を指したりしている。行くところがないと落ち着かないのだろう。遊びなのに背広姿の人が多いのも目につく。この光景を見て、役員を退職後も厚遇する羨ましい制度だと思うか、そういうエリート意識を捨てられないのが問題だと思うか、それがいま問われているのだ。
※週刊ポスト2018年8月17・24日号