大学生がやるバイトの王道といえば家庭教師。コンビニや飲食店より時給の相場がはるかに高い家庭教師は、大学生にとって“おいしい”バイトだが、現在都内でクリニックを経営する男性のTさん(40代)は、医学部生時代に風変わりな家庭教師をした経験があるという。
Tさんは1浪で私立の難関医大に合格。父親は息子の合格を喜び、とてつもなく高い入学金や学費は何とか捻出してくれたが、さすがにお小遣いまではくれなかった。医学部の授業はハードで、バイトをする時間はなかなかとれないもの。ある日、いつものように先輩にご飯を食べさせてもらいにいくと、その先輩から、「そんなに金がないなら、家庭教師のバイトをやらない?」と誘われたという。Tさんが振り返る。
「私は車が好きだったので、それまでカーショップでバイトをしていましたが、当時の時給は850円。わずかなバイト代はすべてガソリン代に消えるような状況でした。ところが先輩から持ちかけられたバイトは、それより遥かに良い時給だというのです。『やります!』と即答でした」
家庭教師の中でも医学部生は人気で、医学部在籍というだけで時給が何割か跳ね上がることも多いが、それらの対象は基本的に小中高生。ロクに仕事内容も聞かずに、先輩の誘い話に飛びついたTさん。「うまい話には裏がある」とはよく言うが、実際その仕事は、世間的には非常に珍しいものだった。
「先輩の指示で私が派遣された先は、都内の高級住宅街にある一軒家で、生徒はその家の一人息子でした。ただし生徒といっても、その息子は私より年上で、しかも大学生。実はその家は代々医者の家系で、息子は浪人を重ねてようやく医学部に合格したものの、2年生で早くも留年。翌年も進級が怪しかったため、私が派遣されたのでした。
私が教えるのは、英語や数学などではなく、医学部の授業で習う内容です。学年が上がれば実習が多くなりますが、2年生の段階ではまだ大半が座学です。その生徒は、『大きな教室で先生の話を聞く』という方法では内容がどうしても理解できない、と。高校までは少人数制の塾や家庭教師の力で乗り切ってきたようでしたが、大学生向けの塾や家庭教師がないので、困っていたようでした」