北米の代表的な原油価格(WTI原油先物)は、2017年に1バレル=50ドル付近で推移していたが、今や70ドル付近の値動きが当たり前となっており、この1年で4割程度の値上がりとなっている。かつてリーマン・ショック直前の2008年7月には147ドルの史上最高値をつけ、その後は30ドル台前半まで急落するなど激しい値動きを繰り返してきた原油価格は今後どうなるのか。世界の金融市場に詳しいグローバルリンクアドバイザーズ代表の戸松信博氏が読み解く。
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現在の原油価格の上昇は、かつてのような投機によるバブルではなく、世界経済の成長に伴う実需が背景にある。
世界に先駆けて量的緩和を終了し、利上げを進める米国は、トランプ政権の下、大規模なインフラ投資と大規模減税によって景気拡大を加速。欧州も6月にECB(欧州中央銀行)が量的緩和政策の年内終了を発表。金融政策の正常化に向けた取り組みが進んでいる。
また世界第2位の経済大国である中国は景気減速の懸念が長らく続いてきたが、2018年7月23日には金融緩和策と景気刺激策を発表して、内需拡大を図る方針を打ち出した。
米中貿易摩擦問題をはじめ、先行きが懸念される問題もあるが、世界経済全体を冷静にみると、成長基調にあるのは間違いないだろう。
そう考えていくと、着実な需要が下支えする原油価格はさらなる上昇が見込まれてもおかしくないが、それを抑え込んできたのがほかでもないトランプ政権である。米国内で開発が進むシェールオイル(頁岩油)の供給増によって価格が抑えてられていることに加え、イランへの制裁も大きく影響を及ぼしている。イラン核合意からの離脱を表明したトランプ政権は経済制裁に着手。イラン産原油の取引停止を各国に求めてきた。8月20日には米国内の戦略石油備蓄の放出計画まで発表するなど原油価格の抑制に躍起になっているのだ。