68歳への引き上げの深刻さはその比ではない。
支給総額が数百万円減らされるうえに、自力で稼ぐ手段は限られる。政府は企業に65歳までの雇用延長を義務づけたものの、再雇用で働く社員の半数以上は非正規だ。給料は現役時代より大きく下がっている。しかも体力的にも「65歳まで働く」と「68歳、70歳まで働く」では負担が明らかに違う。5年間の年金空白を食いつなぐのがやっとの実情なのだ。
65歳以上の高齢者となると就業率は男性が約32%。非正規労働者の比率も4分の3に達し、老老介護をしながら働いている人も50万人にのぼる(総務省調査)。
厚労省がこの現実を知らないわけがない。前述の年金局提出資料には、「支給開始年齢引き上げ」とは別の年金問題解決策として、低所得者層に対する〈公的年金給付の削減を補完する私的年金の奨励〉が挙げられている。
無茶苦茶な論理だ。低所得者に民間の私的年金を掛ける余裕があるとは思えない。だからこその公的年金だ。それを“低所得者は私的年金でなんとかしろ”というのだから、公的年金は社会のセーフティネットの役割を放棄したに等しい。
※週刊ポスト2018年10月12・19日号