政府は年金繰り下げ受給の年齢上限を現行の70歳から75歳に引き上げようとしている。はたして、繰り下げ受給は本当に得なのだろうか。
総務省の家計調査報告(2017年)によると、世帯主が60代後半の高齢者世帯(2人以上)の毎月の支出は平均約29万円。70代前半では約23万5000円、70代後半は約21万5000円まで下がる。ならば60代で年金受給を始め、“ゆとりある生活を楽しむ”という考え方もあるはずだ。
「高齢になると食事量が減り、医療費や交通費もかからなくなります。70代前半までは趣味にお金を使っても、それ以降は生きることで精いっぱいになるので、お金の使い方を考えると70歳以降に繰り下げるメリットはほとんどない。『老人はいつまでも働き、年金は遅くもらえ』という政府の都合に踊らされてはなりません」(経済ジャーナリストの荻原博子氏)
現在、公的年金を繰り下げて受給する人は、全体の1.4%しかいない。この数字が、国民の置かれた厳しい状況、そして政府が旗を振る繰り下げキャンペーンの“薄っぺらさ”を如実に物語っている。
※週刊ポスト2018年10月12・19日号