一切この仕事にかかわっていない一視聴者であっても、これらのメッセージが明確に伝わっているわけで、これは効果が高いCMと言って良いでしょう。あまりにも“ベタ”な展開が続き、挙句の果てには菊川怜が尻でハズキルーペを踏み、「キャッ!」です。次のバージョンではホステスが次々と尻で踏んでいきますが、これは前バージョンで好評だった演出をさらにくどくしたことに他ならない。
実はこのCM、広告代理店の人にとって脅威になっているというのです。なぜでしょうか。30代の営業担当はこう語ります。
「自分らよりもクライアントの方が本来は商品への理解度は深いのですが、社会にそのメッセージを伝えるには我々のような第三者が入り、より一般化し、商品を押し付けられたと感じさせないよう、社会がより受け入れやすいようにチューンナップするというのが自分たちの仕事だと考えています。でも、ハズキルーペの場合は、あそこまでコテコテに商品の特徴を伝えまくっているのに、あの演出により人々の話題にのぼる。
正直あのCMはダサいです。でも、そのダサさを一流の役者が真剣に演じることにより、一つの見事なエンターテインメントに昇華させました。あれをCM制作のプロではない会長がやってしまったことにより、我々は“負けた”と思ってしまったのです」
松村会長の商品にかける“思い”と、冒頭のインタビューに見られるコスパ意識がどんなクリエイターにも考えがつかなかった画期的なCMを生んだのでした。とはいっても、今後このやり方を各社がマネしたとしても、「ハズキルーペのCMっぽい」としか言われなくなってしまうことでしょう。ソフトバンクモバイルのCMに菊川怜が登場し、スマホを尻で踏んで「キャッ!」とやり、「だーい好き」とやらせるところまではオマージュとしてスマートですが、これも一回限りしか使えないであろう高等な技でしょう。